web滋賀プラスワンでは県内の学生に県の取組を取材いただき、若者の目線で伝える学生企画を実施しています。
今回の学生記者
*窪園 真那(くぼぞの まな)*
立命館大学産業社会学部3年生。鹿児島県鹿児島市出身で奄美大島育ち。
身体を動かすことが好きで、最近自転車で琵琶湖を一周する「ビワイチ」を体験しました。
「湖レコ」とは??
みなさんは「湖(うみ)レコ」を知っていますか?
「湖レコ」とは、琵琶湖で漁業許可をもつすべての漁業者が
スマートフォンで漁獲情報を報告できるWEBアプリのことです。
「湖レコ」のように県内すべての漁業者が使うことができるアプリは、まだどこの都道府県も行っていない、全国初の先進的な取組みです!
「湖レコ」アプリで行うのは「漁獲情報の登録」です。
操業日、漁法とその規模、魚種ごとの漁獲量、操業場所をアプリで簡単に登録でき、県に迅速な報告ができます。また漁業者は登録した漁獲情報を集計、分析、可視化することができます。
しかし大学生の私をはじめ、一般の人にとってこのアプリの必要性は分かりにくいものだと思いました。
そこでアプリ開発の中心を担った滋賀県農政水産部水産課の上垣雅史さんに開発秘話をお伺いしました。
アプリ開発の担当者に聞いてみた!
アプリ開発の背景について、滋賀県水産課の上垣さんにお伺いしました。
湖レコの開発のきっかけは、令和2年12月に「漁業法等の一部を改正する等の法律」が施行されたことです。
これにより全国的に漁獲情報を行政に報告することが義務化されました。しかし、「『義務化』という言葉に難点を感じた」と上垣さんは話します。
漁業者の方々に漁獲情報の登録を毎日求めるのは、「義務」ではうまくいかないと感じたそうです。
そこで、「漁業実績の積み重ねが漁業者のメリットになると分かってもらうことが重要」と上垣さんは考えました。
また、県内の漁獲量のトップである沖島の漁業関係者の平均年齢は75歳!
ご年配の方でもアプリでスムーズに報告できるように配慮して、湖レコを開発されたとのことです。
なぜ漁獲情報の把握が必要なのか?
そもそもなぜ漁獲情報の登録が必要なのでしょうか。
その理由の一つに「資源管理型漁業」という考え方があります。
適切な資源管理を行うことで、水産資源の持続可能性、安定性を確保するという考え方です。
1972年に始まった総合開発以降、琵琶湖での漁獲量は減少し、平成に入ると外来魚が爆発的に増加。
ホンモロコをはじめとする琵琶湖の固有種が急激に獲れなくなりました。
しかし漁業関係者や行政、地域住民などの資源管理の努力により、徐々に以前の琵琶湖に戻ってきているそうです。
今回開発された「湖レコ」が、その水産資源管理を加速させることも期待されています。
また、「『儲かる漁業』という観点からも、漁獲情報の把握が必要である」と上垣さんは話します。
資源管理は単に乱獲を防ぐ、漁獲量を制限するだけではないのです。
「適切な漁獲量を確保し、琵琶湖の漁業で安定的に稼ぐことができると、若者にとっても〝琵琶湖の漁師〟が職業の選択肢の一つになるのではないか」と期待しているそうです。
漁師さんのリアルな声
「湖レコ」導入の話を聞いた時、漁師でもある奥村さんは「正直、めんどくさいものなので、組合員に必要性を知ってもらうのが大変だった」と当時を振り返ります。
「早朝から漁に出て、港に帰ると疲労困憊。漁獲量を思い出してアプリで報告というのはひと仕事です」とも。
しかし、奥村さんは組合員に湖レコでの報告の必要性を訴えました。
それは、60年近く琵琶湖の様子を見てきた奥村さんが、漁獲情報把握の重要性を感じていたからでした。
上垣さんをはじめとする県庁職員と漁業組合でアプリの勉強会を複数回開催するなど、時間をかけてアプリでの報告の意義を浸透させていきました。
取材を通して
これまで「漁業」は、琵琶湖の環境と市場の動向の両方に影響を受けてきました。
近年は、漁獲量減少に加え、新型コロナウイルスによる飲食業の冷え込みの影響も受けました。
「沖島の漁業を守っていくためには、『安定性』と『食べてもらうこと』が最も重要」と奥村さんは強調します。
今回取材した「湖レコ」アプリは、琵琶湖の水産資源の持続可能性・安定性を守る、供給側の手段としてさらに利用されていくと思います。
一方で、私たち消費者は湖魚を積極的に食べることが一番の貢献であると感じました。
「湖レコ」の普及による漁獲量の安定化や水産資源の確保に伴って、湖魚の消費量も増えていくことを今後期待したいです。
取材者:窪園 真那(立命館大学産業社会学部3年生)