1月27日から全国公開の映画『THE LEGEND & BUTTERFLY』は、滋賀の様々な場所で印象に残るシーンが撮影されました。今までにない織田信長像を描き出した大友啓史監督に、幻の安土城について、そして滋賀の魅力について語っていただきました。
新たな信長像に挑む
歴史上の人物を扱う場合、過去の偉人としてではなく、私たちのすぐそばにいる、同じ人間として描きたいと僕は考えています。今回の作品では、従来の冷酷で合理的、部下に激しくあたったり残虐だったというイメージから信長を解放して、新しい「人間・信長」を提示したいと考えました。
濃姫から見た信長という視点は、脚本家の古沢良太さんの発見です。戦国時代の物語ではあるけれども、合戦そのものではなく、合戦を前にした信長と濃姫、そして合戦後の二人の関係に重点を置くことで、新しい信長が見えてくると感じました。
また、主演の木村拓哉さんの「先人に失礼のないように演じたい」という言葉から、信長が自らの精神を傷つけていく「戦争のリアル」を描こうと考え、戦いでしんがりを務めた兵士たちがアリのようにぞろぞろ帰ってくる「敗者の列」を描きました。そのリアルさのために、彦根城での撮影ではエキストラの方たちにうんざりするほど何度も急な階段を上がらせて、たいへんな思いをさせてしまいました。
安土城跡で得たイメージ
撮影に入る前に、安土城跡を訪ねて時間をかけて回りました。天主ってこんなに狭いの!? とびっくりしたり、琵琶湖を望む場所に立ったり、安土城考古博物館もじっくり見ました。築城のシーンを石垣造りから始めることにしたのは、安土の取材で触発されてのこと。また、安土城跡の裏側に下りていった時に見た湖のイメージが印象的で、本能寺へ向かう場面は水場を抜けていくシーンにしたんです。
幻の安土城を再現
信長は那古野城、清洲城、岐阜城と移り住んで、最後に造ったのが安土城。その間に家臣がどんどん増えて、家臣の質が変わり、信長と濃姫が背負うものも変わっていった。安土城の築城を現代で例えると、新婚当初1LDKに暮らしていた夫婦が六本木ヒルズを建てるようなものなんです。そうした信長と濃姫の物語にふさわしい城のデザインを、安土を実際に訪ねて僕が感じたことをベースに諸説を参考にして美術監督に考えてもらいました。
安土城の非常に高い天主はヨーロッパの教会建築のように、天上の神に近づこうとした信長の意志の反映ではないかというのが僕の仮説です。あの時代に比叡山の仏を焼いてしまって心がすさみ、濃姫の心も少しずつ離れていく。そうした孤独から、信長は自分の弱さをゆだねる対象としてキリスト教に向かったんじゃないかと思うんです。
滋賀で見つけたすばらしい場所
滋賀は京都ほど観光化されていない、手つかずの場所がいっぱいあってロケ地としてとても魅力的です。
今回のロケ地として最も印象的だったのは、夢のシーンを撮った「岩尾池の一本杉」(甲賀市)。岩尾池の水の透明感がすばらしくて底の水苔の緑まで見え、幻想的な空間でした。 光秀が家康を饗応するシーンを撮影した長浜の大通寺もよかった!床の間やふすま絵などの設えから釀し出される格式の高さを感じて、セットをやめて大通寺で撮ろうと決めました。
時代劇を撮る時に毎回足を運んでいる滋賀県は、僕にとって長年のパートナー。今回も滋賀でたくさんのインスピレーションを与えてもらいました。苦労していたロケ地探しでは、滋賀ロケーションオフィスの案内ですばらしい場所をたくさん見つけることができました。
滋賀の皆さんに協力していただいて映画が完成しました。滋賀のすばらしい風景や文化、皆さんの協力がなければ、この映画は撮れませんでした! ありがとうございました。
■ あらすじ
尾張国の織田信長(木村拓哉)は大うつけと呼ばれるほどの変わり者だった。敵対する隣国・美濃国の斎藤道三の娘・濃姫(綾瀬はるか)と政略結婚という形で出会った信長は、彼女と激しくぶつかるが、今川義元との戦で一緒に戦術を練ったことから二人は固い絆で結ばれるようになる。そこから二人は、天下統一に向かって歩みだす。
■公開日
2023年1月27日(金) 全国ロードショー 東映配給
■監 督
大友啓史
■ キャスト
木村拓哉、綾瀬はるか、伊藤英明、中谷美紀、宮沢氷魚、市川染五郎(8代目)、北大路欣也、音尾琢真、斎藤工
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