「44.4%」で全国1位。
これが何の数字か分かりますか?
答えは、県内総生産に占める製造業の割合です。全国平均が20.9%の中、滋賀県は44.4%でダントツの1位。
じつは滋賀県は、日本有数のものづくり県なんです。
普段生活をしている中ではなかなか触れることのない「ものづくり」産業。
しかし、身近なところにその製品は隠れていたりもしています。滋賀の「ものづくり」最前線を取材してきました!
JR草津駅前にある”産業用液晶モニター”のシェアNo.1企業
まず向かった先は、JR草津駅から歩いてすぐのところにある株式会社テクナート。
1989年創業の同社では、『PICTAS(ピクタス)』というオリジナルブランドで液晶モニター開発で急成長を遂げています。
身近にある液晶モニターといえばまずスマートフォンを思い浮かべますが、テクナートは、スマートフォンが普及するよりも前から駅の券売機や銀行ATMのタッチパネルなどのモニターを作ってきた企業です。社名こそあまり知られていませんが、産業用液晶モニターの業界シェアはなんと全国1位!
形状やサイズに関わらず、どんな形のモニターにも映像をフィットさせられる独自技術をもとに、業界を牽引しています。
最近よく見る、エレベーターの庫内を監視できるモニターや、企業の受付用のタッチパネルなども、テクナートの製品がよく使われているそう。
そんなテクナートの宮下さんに、滋賀県で「ものづくり」をするメリットについて聞いてみました。
「本州のちょうど真ん中にある滋賀県は、西にも東にもアクセスしやすいのがメリットですね。大阪や京都、名古屋といった大都市にも近い。そして、もう一つ大きなメリットがあるんですが、それは県の施設を活用できるということですね」
県の施設?どんな施設があるんでしょう?
その施設を紹介してもらうため、宮下さんと一緒に県立施設に行ってみました。
まるでSF映画から抜け出てきたかのよう!近未来的なラボ!
向かった先は、栗東市にある「滋賀県工業技術総合センター」。
ここは滋賀県立の試験研究機関です。電子、機械などの工業製品のほか、食品、デザイン、窯業など幅広い分野の産業支援に取り組んでいるそう。
「ようこそ、滋賀県工業技術総合センターへ!」
満面の笑みで迎えてくださったの滋賀県職員の山本典央さん。
メーカー企業に勤めたあと滋賀県職員へと転身。以来、20年以上、研究職として県内企業を支える仕事をしています。
山本さんに案内してもらいながら中に入ってみると・・・
そこには、SF映画にも出てきそうな、近未来的な雰囲気を感じる空間。
ここは何の部屋なんですか?
「今年5月にオープンした『デジタル高速無線通信・EMC評価ラボ(以下略:ラボ)』といいます。電化製品などが発してる電磁波をテストするための部屋ですね。電化製品はどんなものでも多少の電磁波を発しているため、製品として出荷する際には、“電磁波が規定の範囲に収まってるか?”や、”他の電磁波を受けて誤作動しないか?”をテストしないといけません」
携帯電話などの通信機器だけでなく、いわゆる家電製品や液晶モニターなども、電源を入れると電磁波が出ています。その電磁波が、どれくらい出ているか?をテストできるのが、この部屋だそう。
「大企業の場合は、そういったテストを自前の設備で出来るところもあります。でも、中小企業ではそうはいきません。滋賀県の製造事業者のほとんどが中小企業なので、県の設備でテストできるようにしています」
テクナートが活用している”県の施設”というのは、まさにこのこと。滋賀県工業技術総合センターでは、以前から電磁波を測定する部屋(電波暗室)があり、テクナートでもその施設を活用しながら、製品開発を続けていたそうです。
この電波暗室が2024年5月にリニューアルされ、『デジタル高速無線通信・EMC評価ラボ』としてオープンしたので、電磁波と同時にWi-Fiの通信品質もテストすることができるようになりました。
ちなみにこの機能は、全国の公設試験研究機関で初めての導入!滋賀県のものづくりへの本気度を感じられますね。
検査はどうやって行われる?実際の測定の様子を見学
言葉で説明されてもなかなか分からないため、操作している様子も見学させてもらいました。
テストが始まると、測定用のアンテナや、製品を置くテーブルが自動で動きます。さまざまな高さや角度から電磁波が測定できます。
実際のテスト時は、室内に人がいると、それだけで測定結果に影響が出てしまうため、隣の部屋からモニターで監視します。リアルタイムで表示される測定値をもとに、基準に沿っているかを確認。
モニターには基準値も横線で表示されています。計測した電磁波が、この横線を下回ってると合格。
この測定を、360度のすべての角度から、また、さまざまな高さから計測し、不要な電磁波が発せられていないかをテストしていきます。
ちなみに、ラボのオープン以降、テクナートでは、このテストに掛かる時間が大幅に短縮したそうです。以前は1製品に1時間かかっていたのに、今はたった8分で済むようになったんだとか!早い!1日に何製品もテストしていることを考えると、この大幅な時間短縮は今後の企業成長にも大きな影響を与えそうです。
県と地元企業の二人三脚。滋賀県の”ものづくり”産業が日本を支える!?
テクナートに限らず、さまざまな県内企業が活用している『デジタル高速無線通信・EMC評価ラボ』。なんと、すでに1ヶ月先まで予約が埋まっているそう。滋賀県で製造業をしている中小企業にとっては、かなり心強い施設がオープンしたといえそうです。
しかし、この取材をするまでは、正直なところ、滋賀県に”ものづくり”産業が盛んなイメージがありませんでした。
そのことを、単刀直入に、山本さんに尋ねてみました。
「滋賀に”ものづくり”のイメージがあまりないのは、家電のような一般消費者向けの製品ではなく、企業向けの機械を作っていたり、テクナートさんのように何かに組み込んで使われる製品を作っていたりと、表には出ない役割を担っている企業が多いからかもしれませんね。いいものを作っているけど、自分たちの名前を出して消費者にアピールしてるわけではない。」
なるほど、縁の下の力持ちなんですね。
「滋賀のものづくりには、昔からそんな気質があるような気がします。例えば、古くから京の都で使われてる扇子ですが、”扇骨”といわれる骨の部分は、ほとんどが滋賀で作られてきた歴史があります。”京都の扇子”として売られているものでも、中の部品を作ってるのは滋賀。滋賀は昔も今も、自分たちのブランドで売ってないだけで、素晴らしい”ものづくり”をしてる地域なんですよ」
県内総生産の44.4%を製造業が占める滋賀県。見えないところで活躍する部品などが多いため、知らないだけで、本当は毎日の生活でも、滋賀で作られた製品がたくさんあるんでしょうね。
2026年度には、滋賀県北部、JR米原駅前に「東北部工業技術センター」が完成することも発表され、まだまだ進化が止まらない滋賀の”ものづくり”。これからも注目していきたいですね!
(文:土谷真咲/撮影:林正隆/編集:しがトコ編集部)