
滋賀県出身者として初のノーベル生理学・医学賞を受賞された坂口志文さん。三日月知事とともに、故郷への想い、そして学びや健康の未来について語っていただきました。
大阪大学特別栄誉教授 坂口 志文 さん
1951年長浜市生まれ。県立長浜北高校、京都大学医学部卒業。1995年に「制御性T細胞」の存在と免疫学的重要性を世界で初めて証明。2025年ノーベル生理学・医学賞を受賞。
坂口さんが日々研究を行っている大阪大学でお話を伺いました。
故郷・長浜への想い
坂口さん 私が生まれたところは、姉川のすぐそばで、歩いて10分くらいすれば姉川へ行ける場所でした。私の小さい頃は、琵琶湖にあゆがたくさんおりまして。
樽を川下に向かってつけるだけで、魚がたくさん取れるくらい。
今はどうなっているかわかりませんけれども本当に自然に恵まれた場所でしたね。
少し歩けば、琵琶湖に行けますし、姉川もあり、歴史的には長浜城や姉川の合戦もあれば、小谷城もあるということで、面白い土地で育ったと思っております。
知事 今、坂口さんがおっしゃったように、ちょうど今の時期は、伊吹山が雪化粧を始めましたし、28季連続でオオワシの「山本山のおばあちゃん」が今年も飛来をしてきてくれています。おっしゃった琵琶湖には、たくさんの水鳥たちが一緒にこの冬を越すためにいてくれています。
姉川、高時川、清流がずっと流れて、多くの方々に恵みをもたらしてくれると同時に、アユを始めとする生態系にとっても大変重要な地域になっています。
若干、気候変動の影響か水温の関係かで、アユの量が最近少し減っているという悩みがありまして、今いろんなことを調べたり、放流のやり方を変えたりしながら対策をとっております。坂口さんが子どもの時代から過ごされた、この豊かな自然環境というのをこれからも大事に守っていきたいなと思っています。
坂口さん 歴史的に見ても、様々な人物が生まれたところですよね。
学問という意味では、私の母親が、昔は女学校の先生をしておりまして、最初に勤めたのが、高島でした。そこに中江藤樹の藤樹女学校というのがありまして、そこの先生を始めたのが最初だと聞いております。
琵琶湖哀歌の四高生が遭難した時に、その女学校に勤めていまして、浜辺に打ち上げられたとか、そういうことを話してくれたことがあります。
それと私の仕事とは直接的な関係はないんですが、そういう中江藤樹とか、いろんな人たちが出た土地柄も魅力ですね。

(公社) びわこビジターズビューロー
新古の魅力が詰まった北部地域
知事 坂口さんが生まれ育たれた、湖北。長浜もそうですし、お母様が女学校の先生をされていた高島、そして、伊吹山のふもとである米原。
この米原、長浜、高島という、いわゆる滋賀県の北部、北陸、中京圏の玄関口は、人口減少が他の地域よりも早く進んだり、長生きできるようになったけれども、高齢化の比率が他の地域よりも高いということがあります。ある意味で課題先進地域として、県も3市と連携しながら、地域振興により重点的に取り組もうということに、今注力しているところです。
例えば農業資源を活かしたり、文化財にもう一度光を当ててお客様に来ていただいたり、アートや、オーベルジュなど、そういった可能性を見出しながら、地域振興をすることができないかなと。
毎年、高校生の皆さんとサミットもやっておりまして、北部3市域内にある高校生の皆さんと、どうすればもっと魅力的な地域になるのかな、ということを一緒に考え始めています。
その意味でも、坂口さんが、「この地域で生まれ育ちました」「この地域にはいっぱい良いところがありますね」といったことを、いろんな場面でおっしゃってくださることは、私たちにとってもそうですし、当該地域の皆様方にとっても、とても誇りに思えることだなと感じております。
坂口さん 最近は時々行く程度ですが、快速で1時間くらいで京都から長浜へすぐに行くことが出来ますね。昔はもっとかかりました。また、まちおこしで、今多くの行楽客がたくさん来られますよね、黒壁スクエアとか。
そういう意味では変わりましたけれども、ただ、伝統的な祭や子ども歌舞伎などは、まだまだ続いていますので、変わらないところも多いと思っています。
知事 今坂口さんがおっしゃった長浜という市は、一市八町が合併してできました。長浜市一市で、ほぼ、琵琶湖と同じくらいの面積を持つ、非常に広大な、そして多様性に富んだ場所です。
北は、余呉、西浅井から、南の長浜、例えば、虎姫、そういった場所も、多様な地域性、文化を持っていますので、そういったところを大事にしたいなと思いますね。
例えば、高月町の観音文化は、本当に地域、地域で大事に住民の皆さんがお守りいただいています。ゆえに、例えばお祭りもそうでしょうし、いろんな風習もそうですけれども、独自のものがたくさん残っているというところを、これからも皆さんと一緒に学んで、大事に残していきたいなと思っています。
長きにわたる研究の心の支え
坂口さん 研究を続けるにあたっての信念といった大げさなものはありませんが、私の場合は医学部を受けていましたので、その中で解決されていない病気というのが随分ありました。
免疫にかかわる病気の中には、免疫が自分を守るのではなくて、自分を攻撃するという病気がありますね。関節リウマチやⅠ型糖尿病など、自分を守るべき免疫が自分を攻撃するというもの。それを解決する、その後ろにある生物学的な原理というのでしょうか。そういうものに興味がありまして、付き合ってやってきて気がついたら50年以上やっているということです。
いろいろありましたが、基本的には楽天的な性格ですので、興味を持って持続できたということではないでしょうか。
知事 今、坂口さんは長い研究のご苦労や問題点を短い言葉で語られましたけれども、興味関心があることについて、例えば仮説を立てたり、いろんな実験を繰り返したりして、人の病気を治すとか、その奥にあるメカニズムを探るという行為をずっと続けてこられた。そして結果として、世界からノーベル賞という形で評価される実績を得られたということは、これは並大抵のことではないと思います。
そういう方が、滋賀県出身で、ゆかりの方としていてくださるというのは、私たち後進にとっても、また別の分野の方々にとっても、これという道をひとつ定めたら、諦めずにずっと続けて頑張る、一つの縁(よすが)になるような気がしますね。
“好き”を後押しする学びの場
坂口さん 研究分野において、私たちの子どもの頃といいますと、湯川秀樹さんがノーベル賞を最初に受賞され、科学者というのはすごいなという子どもらしい憧れがありました。それが少しは勉強しようという力になったかもしれませんけれども、やっぱり重要なのは、勉強に限らずですが、自分の興味があれば、ある程度続けてみることだと思います。
そうすると、また新しいものが見えてますますのめり込んでいくのではないかと。そういう形でゆったりと、長い目で見てですね、子どもたちが育っていく環境があればいいなと思います。今は、なんだか世知辛くなってきますし、インターネットとかでちょっとした刺激はすぐに手に入る時代です。しかし、自分が一回面白いと思ったことに興味を持ち続けるということは、やはり今の時代でも重要だと思いますね。
知事 今、坂口さんが仰ったように面白いと思ったことがきっかけ、発端になることはとても大事だなと思います。
例えば子どもたちの遊び。これは、自然の中での遊びもそうでしょう。人と人との遊びもたくさんありますが、そういった遊びの中から学べるような環境。また、子どものうちの体験というのは、これは勉強の面でもとても有益でしょうし、社会に出て暮らしていく、働いていくためにも大変重要です。子どもの体験を充実させる、子どもの夏休みというのを、どんな家庭環境にあってもいろんな体験活動ができるように、企業の皆さんにご協力をいただいたり、いろんな公園や博物館も活用しながら、子どもの体験活動を充実するような取組を県を挙げてやっています。
また、特に高校の時代に学びたいと思ったこと、興味あることをさらに伸ばしていく3年間を過ごせるよう取り組んでいます。高校の魅力をそれぞれの分野で高めるような取組、例えば、伊香高校には「森の探究科」、守山北高校では未来を共につくる、いろんなアントレプレナーシップを学ぶといった「みらい共創科」という新学科をつくるなど多様なプログラムを用意することも今始めています。
坂口さんがおっしゃったように、僕もやってみたいな、私も挑戦してみたいなという気持ちを後押しできたらいいなと思います。

坂口さん やっぱりいろんな選択肢があるというのは、重要なことだと思います。
日本は学歴社会でしたが、それも変わっていくと思いますね。
やっぱりいろんな職業について、勉強したくなったらまた学校に通ってみるなど、そういう意味ではいろんな生き方ができる時代にどんどんなっていくし、それが社会が成熟していくことに繋がると思います。
ですから、いろんな高校があって良い。私は長浜北高校だったんですけれども、家政科という女の子だけのクラスもありました。男子学生にとってはいつもそっち側ばかり見ておりましたけど(笑)。そういう高校の特異性もやはり重要なことだと思います。
知事 坂口さんが仰ったように、多様な学びを保証するという観点は、県もとても大事にしています。
例えば、学校で学べなかったとしても、オンラインを使いながら、また教室以外に居場所を作りながら学びを保証していく。また、滋賀県にもあるといいねと言われていた高等専門学校(高専)も、2028年開校予定で、今、県立で整備を進めているところです。この秋に設置認可の申請をする準備をしています。
まさに中江藤樹先生の教えである知行合一の、知識と、そして実際の行動があって行動実践できる、そういうエンジニアを滋賀県から輩出していけたらいいなと思ってやっています。
そのプログラムにも、また坂口さんがおっしゃったようなことを盛り込んでいけたらいいなと思いますね。
坂口さん 私はあまり高専の方と接する機会がないですが、時々テレビなどで見ます。ロボットのコンクールで、いろんな工業高等専門学校の方が、非常にユニークな形のロボットを楽しみながら作っている、色々な技術を習得したりされているんだと思うと、やはりそのような学校があるというのは面白いと思っています。
先ほども申しましたが、いろんな形の学びがあると思います。科学技術の中のあるものをもう少し詳しく、より勉強してみたいと思えば、また次の機会として大学の方へまた進まれるもよし、いろんな可能性が選択できるということが重要だと思います。
知事 先ほど坂口さんがおっしゃったように、多様な学びというのは大事だと思うんですけれども、ややもすると結果をすぐに求めてしまいすぎなことがあると思うので、じっくり学ぶ、時間をかけて一つのことを極めるとか、そういったものも大事にしていきたいなと思いますね。
もちろん国を挙げて基礎研究を応援するということも大事ですが、子どもたちの根っこにある興味・感心・力を引き出してあげられるような、先生方との対話や地域・社会、いろんな方々との交流など、そういうものを作っていけたらいいなと思います。
実は私は、高校の時に英語の先生であった坂口さんのお兄さんから、ドナルド・キーン先生のことを教えていただいたことがあります。外国の方が日本文化に興味・関心を示し、そのことを英語で表現されるところから、逆に日本のことを教えてもらうというのは、非常に新鮮だったことを覚えていて、その後も機会があるごとに本を読んだりすることにつながりました。やはりそういう機会をもっともっと作っていきたいなと思いますね。
医学界の未来を担う制御性T細胞の研究
坂口さん 私が研究しているのは、免疫反応をいかにコントロールするかということです。今までは、免疫というのは、新型コロナウイルスのようにワクチンを作ったりして、いかに免疫反応を高めるかということが中心に進んできたわけですね。
私が研究しているのは、逆に免疫反応をいかに起こさないかということです。
それが分かりますと、例えばアレルギーが治る、自己免疫病が治る、逆にガンに対して免疫反応が起きないのを起こすようにするなど、様々な可能性が出てきます。
その中で、免疫反応を抑えているリンパ球ということで、制御性T細胞というものを見つけたわけです。つまり、この研究というのは、実際の人の病気をいかに治すか、予防するかということに、非常に近いと言いますか、直接つながっています。
今、世界的にも制御性T細胞を標的として増やしたり減らしたりして、いろんな病気が治せないかという研究が盛んに進んでおります。私たちもやっていますが、そういう流れの中で、早く実際の患者さんに、有効な治療法、効果的な治療法、予防法、そういうものが届けばいいなと思っております。
知事 専門的なことを全てわかるにはほど遠いですが、坂口さんが今おっしゃったように、免疫を抑える、また増やしたり減らしたりすることで、様々な治療や予防方法につながる。
これは多くの病気で悩まれている方々にとって、願われる、求められる、そういった研究だということを思いました。
また、マウスの実験で、胸腺と言うのでしょうか?その存在が大事だということを突き止められて、その過程においては、多くのマウスの命もいただきながら、研究を積み重ねてこられて、その命にも思いを馳せられながら、こういった成果を上げてこられた。
こういったことにも、私たちも思いを寄せたいなと思っていますので、これからの坂口さんの研究成果を生かした治療薬や予防方法に、大いに期待をしたいなと思うと同時に、また次の坂口さんみたいになりたい、そういう若者や研究者の存在や出現もあったらいいなと思います。

いのち輝かせる「健康しが」
知事 おかげさまで、都道府県ごとの寿命、これは平均寿命も健康寿命もですが、滋賀県の人たちは、比較的他の県よりも長生きする人が多いです。
これはもちろん、体の健康、病気の予防、死亡率の低下、こういった要因もありますが、タバコを吸わないとか塩分を控えめにする、お酒の量も適度にする、などいろんな生活習慣があります。また、社会的な意味ですね、人と人とのつながり支え合い、いろんな役割を持ちながら生活していく、こういったことを通して、せっかくいただいた命をより良いものとして輝かせることができるような取組を、これからもやっていきたいなと思っています。
また、私たち人の健康と、そして人と人とのつながりである社会の健康、ここには産業ですとか、経済という分野もあろうかと思いますし、土台となる、冒頭、坂口さんがおっしゃった、豊かな自然環境がないと、人間を始めるとする生き物も生きていけません。この自然の健康、これらをトータルで保ち高めていけるような取組を、これからも滋賀県として、滋賀県らしく進めていけたらいいなと思いますね。
坂口さん 私の母親も105歳まで生きました。先ほど知事がおっしゃったように、私たちの研究ではマウスをたくさん使ったりするんですけれども、母親がある時、マウスの瀬戸ものを焼いてくれました。たくさんのマウスを使っているというか、殺している、そのことを忘れるなということで、作ったものをくれたことがありました。
健康寿命という意味では、私たちができるのは、本当に今おっしゃった健康寿命をいかに長くするかということにつきますが、病気で苦しみながら生きるよりは、健康に長く生きる。やはり人生は、寿命が尽きるまで楽しんで生きるということが重要になるかと思います。
そういう意味で、滋賀県は風光明媚な土地でありますし、自然もあれば、歴史もあれば、またこの湖の魚など、いろんなものがある非常に恵まれた土地です。お酒を作っているところもあるという楽しい土地であり、医学的な健康寿命に加え、生活が楽しめる土地柄であると思います。
知事 おっしゃったように、自然、環境豊かで、その中で育まれていた歴史や文化を大切にし、営まれる暮らしや生業、そういうものを大事にしていきたいなと思いますね。
今は世界的に、グローバルな交流があるからこそ、その土地に根付く独自でオリジナルなものを大事にする視点、そういうことがますます問われ、試されているんだと思います。
おかげさまで、滋賀県は日本の真ん中にあり、国内に限らず国外との交流もある中で、独自の文化を育んできました。そういった文化を大事にしながら、その中で生きていくことが楽しくもあり、そして自分らしく命を輝かせることができる、長く生きていける環境をこれからも皆さんにお知らせすると同時に、実感していただけるようになればいいなと思いますね。
県民の皆さんへのメッセージ
坂口さん 私は長浜で生まれ育ち、高校生までという非常に楽しい、人が成長していく時期を過ごしました。いろんな思い出がありますし、いろんな方にお世話になってありがたく思っております。
今回ノーベル賞を受賞するにあたりましても、いろんな人からお祝いを、本当に思いがけない人からもお祝いの言葉をいただいたということで、非常に感謝しております。
やはり、知事がおっしゃるように、皆さんが楽しく健康に生きていき、また、スポーツや学問など様々なフィールドで、皆さんに活躍してほしいと思っております。
知事 2026年のこの新年を寿ぐ県の広報誌の対談を、ノーベル生理学・医学賞という、快挙を成し遂げられた、滋賀県出身の坂口さんとの対談で迎えられるということの誇りと喜びがあります。県民としてもそうですし、滋賀県知事としても、これほど嬉しいことはありません。
坂口さんから生まれ育った滋賀のことをとても大事に思っていただいているということや、どんなことでもいいから、興味関心を持って学んだり、そして学び続けたりというエールをいただきました。
そして、この滋賀県の持っているものを大事に活かしながら、豊かな人生を送れる地域をこれからも作っていきたいなという思いを新たにいたしました。
新年は大河ドラマ「豊臣兄弟!」に始まり、安土城築城450年という節目もあり、湖国近江が持っている歴史が全国から注目される年でもあります。
今年は丙午といいます、十干十二支の巡り合わせでは、陰と陽など、先ほど坂口さんがおっしゃったように免疫のことで増やす、減らす、攻撃する、守る、いろんなバランスの中でずっと過ごしていくことが求められる一年になるかと思います。
坂口さんから教えていただいたようなことをまた糧にしながら、今年一年も皆さんと力を合わせて過ごしていきたいなと思っています。
【COLUMN】
免疫学最後の大発見『制御性T細胞』とは?
制御性T細胞は、免疫の暴走を防ぐブレーキ役を担う免疫細胞です。自己免疫疾患や、アレルギーなどの抑制に重要で、免疫のバランス維持に欠かせません。坂口さんは制御性T細胞を発見し、その存在と免疫学的重要性を世界で初めて証明しました。
医療への応用が期待されています
●免疫病の治療・予防
●がん免疫療法
●臓器移植に対する免疫寛容誘導
