
2025年の大ヒット映画といえば『国宝』。
歌舞伎の世界を描いた話題作として、全国で多くの観客を魅了しました。
そんな『国宝』のロケ地のひとつが、滋賀県大津市にある「びわ湖大津館」だったことをご存知でしょうか?
威風堂々とした桃山御殿風近代建築の佇まいは、劇中で歌舞伎座の外観として登場。
館内外でさまざまなシーンが撮影されました。
でも、滋賀と『国宝』のつながりは、それだけではありません。
劇中で演じられた歌舞伎「藤娘」のルーツが、なんと大津で生まれた「大津絵」にあるのです。
映画『国宝』の演目「藤娘」
映画『国宝』の劇中で演じられたのは、歌舞伎の人気演目「藤娘(ふじむすめ)」。
花が波打つ藤枝を手に舞う美しい娘の姿が印象的な、舞踊中心の作品です。
その原点とされているのが、大津で描かれていた一枚の絵――「大津絵・藤娘」。
江戸時代、大津の宿場町で売られていた民画で、旅人たちが京の都を訪れた帰り道にお土産として買い求めたものでした。
大津絵は、もともと庶民が拝む本尊として仏さまを描いた民画でしたが、やがて様々なキャラクターを創案して、風刺や教訓を描いた「世俗画」へと変化。
その中で特に人気を集めたのが、藤枝を持つ娘を描いた「藤娘」でした。
この絵は大阪で上演された浄瑠璃で有名となり、やがて江戸でも歌舞伎の演目へと発展。
というわけで、映画『国宝』で再び脚光を浴びた藤娘のルーツは、そもそも滋賀・大津にあったのです。


風刺と教訓にあふれる「大津絵」の世界
大津絵には、「鬼の念仏」や「瓢箪鯰(ひょうたんなまず)」、「猫と鼠」など、風刺や教訓が込められたユニークな画題(キャラクター)が数多くあります。
たとえば、「鬼の念仏」は、破門された僧が、庶民に念仏を押し売りして無慈悲にお布施を巻き上げる様を描いたもの。
見た目だけは寺の復興に献身する“偽善”への警戒が込められています。
また、「瓢箪鯰」は、つるつるした瓢箪で鯰を押さえつけようとする猿を描き、猿智恵を弄(ろう)して徒労に終わる滑稽さを風刺する一枚。
昔の絵でありながら、今を生きる私たちにも通じるような視点や気づきが、大津絵には描かれているのです。
かつては「そば一杯」と同じくらいの価格で売られていたとも言われる大津絵。
今ではその素朴な魅力が見直され、美術品としての価値も高まっています。


絵画と映画が大津で交差する
かつて一枚の絵として大津で生まれた「藤娘」。
それが歌舞伎の演目となり、時代をこえて映画『国宝』の中で描かれました。
その作品のロケ地のひとつに、大津のびわ湖大津館が選ばれていることは、どこか不思議な縁を感じさせます。
文化は時代をこえて、静かにつながっていく――
そんなことを感じさせてくれるのが、大津というまちの魅力です。
映画を観た人も、まだ観ていない人も。
この機会に、「藤娘ってどんな絵だったんだろう?」「大津絵って、ちょっと面白そう」と思ったなら、ぜひ調べてみてください。
滋賀には、そんな“文化の芽”が、まちのあちこちに息づいています。




